「イラン」の正式名称は、「イラン・イスラーム共和国」です。
「イスラーム共和国」と聞くと、何だか難しい国のように感じてしまいますようね。
実は、その通り、とても難しい国であり、その政治体制も非常に複雑な体制をしています。
今回は、うつオジサンが、その「イラン・イスラーム共和国」の政治体制について分かりやすく解説しましょう!
イランの政治体制の成り立ちについて…!
1979年の「イラン革命」によって、「パフレヴィー朝」の独裁国家が倒されました。
その「イラン革命」の中心人物であった“ルーホッラー・ホメイニ師”は、「法学者の統治(ヴェラーヤテ・ツァギーフ)」という論理を主張しました。
この論理では、「イスラーム国家はイスラーム法学者が統治すべきだ…!」というものです。
その後、この考え方が国是となって、やがて憲法にも規定されました。
つまり、最も優れたイスラーム法学者が国のリーダーになるってことですね。
このようなことから、大統領や議会の上にイスラーム法学者である「最高指導者」が置かれることになったわけです。
「イラン」という国の政治体制の複雑さが、少しだけ垣間見えたのではないでしょうか?
「イランの最高権力者」=「最高指導者」なのです。
イランで最高の権力を有する人が「最高指導者」であり、現在は二代目の“セイエド・アリーハメネイ師”がその職についています。(1989年の“ホメイニー師”の死去に伴い選出)
「最高指導者」は必ず「イスラーム法学者(ウラマー)」の中から選出されることになっていて、その任期は終身です。
通常であれば、大統領(大統領制の場合)が国家元首だと思ってしまいますが、国家元首は「最高指導者」であり、大統領はあくまでも「行政府のトップ」の地位だということですね。
1.最高指導者の任命
最高指導者の任命は、後述する「専門家会議」という機関によって任命され、また、罷免されることになっています。
「専門家会議」のメンバーが国民の直接選挙で選ばれるために、ある意味では「最高指導者」は国民から選ばれた格好となっているのかも知れません。
あくまでも、間接的にですが…。
2.最高指導者の権限
最高指導者の権限には、次のようなものがあります。
・宣戦布告の権限
・イラン国軍(国境防衛)、革命防衛軍(国内治安維持)の最高司令官の権限
・大統領の解任権
・最高司法権者の任命権
・国営テレビ、ラジオ総裁の任命権
・監督者評議会の議員12人のうち6人の任命権
宣戦布告の権限だとか、国軍や革命防衛軍の最高司令官の権限だとか、大統領の解任権だとかを見ると、いかに権限が大きいかが良く分かりますよね。
3.最高指導者の職務
最高指導者は、イラン・イスラーム共和国の「全体的な政策や方針の決定と監督について責任を負う」こととされています。
最高指導者は、後述する専門家会議から選出される際、「イスラーム法学上の資格と社会から受ける尊敬の度合い」に基づいて選出されることになることから、最高指導者としての人格、尊厳を持って職務に当たることが要求されます。
イスラーム的に言えば、「指導者の地位(イマーマ)」は、公正かつ畏怖の念が深く、時世に通じ、勇敢であり、管理能力に長けた法学者に委ねられる」ってことでしょうか?
何しろ巨大な権力を有しているのですからね。
イランの「大統領」と「議会」
2021年6月に「イラン」の大統領選挙が行われ、保守強硬派の“エブラヒム・ライシ師”が勝利しました。8月3に最高指導者であるハメネイ師からの認証を受けて、イラン革命後8人目の大統領に就任しました。
イランの憲法では、最高指導者の次に高位の官職は「大統領」とされています。
その大統領は、国民の直接選挙で選ばれ、任期は4年、連続でも3選は禁止となっています。
大統領は、就任すると数名の補佐官と約10名の副大統領、約20名の大臣を任命します。
また、これらの人たちで「閣僚評議会」が構成されます。
各副大統領は、「議会」の承認が必要となっています。
その「議会」は、一院制で任期は4年、定数は290名です。
「議会」の議員も大統領と同様に、国民の直接選挙で選ばれます。
また、「議会」は、立法府としての権能を持ち、法案の審議・条約の批准・国家予算の認可などを行うこととなるため、他の国とそれほど変わりはないようです。
イランの「議会」は、後述する他の評議会などと区別するため、「マジェレス(イスラーム諮問評議会)」と呼ばれています。
さて、ここまでを見ると、大統領の上に絶対的な最高指導者がいることくらいしか、他の国と政治体制について大きな差異は見られませんよね。
いよいよ、ここからが複雑な「イランの政治体制」に入っていきますよ。
イランの政治体制の特質性について
ここまで触れませんでしたが、選挙候補者(大統領・国会議員・専門家会議メンバー)に対しては、「監督者評議会(護憲評議会)」の厳しい資格審査があります。
つまり、「イスラーム」に相応しくない人は、立候補すらできないのです。
(参考:国会議員290名のうち、イスラーム教徒以外に5議席だけ他の宗教のポストが保証されています。)
また、「議会」と「監督者評議会」の意見が割れた際の仲裁や調整が行われる「公益判別会議(最高評議会)」という評議会があり、さらに、「最高指導者」の選出・罷免を行う「専門家会議」という会議もあります。
だんだん難しくなってきたでしょう?
では、それぞれを見ていきましょう。
1.監督者評議会(護憲評議会)
「監督者評議会」の構成は、最高指導者が指名する6名の「イスラーム法学者」と、司法長官が指名し議会が承認する6名の一般法学者の合計12名からなっています。
「監督者評議会」の役割は、憲法の解釈、議会で可決した法案の審査と承認、そして、選挙候補者(大統領・国会議員・専門家会議メンバー)の立候補資格審査と認証となっています。
これからも分かるように、徹底した「イスラーム」色が見えますね。
先に書いた通り、「イスラーム」に相応しくない人は立候補もできないのですから。
(「議会」の5議席だけ、他の宗教のポストは保証されていますが…。)
「監督者評議会」の構成員は、最高指導者が指名する6名の「イスラーム法学者」と、司法長官が指名し議会が承認する6名の一般法学者の合計12名と上述しましたが、「司法長官」を指名するのも最高指導者なので、監督者評議会に対する最高指導者の影響の大きさが分かりますね。
監督者評議会の枠割の中に「憲法の解釈」があるように、監督者評議会は「護憲評議会」とも呼ばれています。
2.公益判別会議(最高評議会)
公益判別会議は、最高指導者が任命する約30名の知識人からなる機関であり、その役割は議会と監督者評議会の意見が割れた際の仲裁や調整となっています。
また、最高指導者に対する諮問もその役割となっています。
つまり、最高指導者や監督者評議会の暴走を防ぐ役割も果たしているのです。
そのため、国家において最も強力な組織の一つになっています。
3.専門家会議
専門家会議は、国民の直接選挙で選ばれる「イスラーム法学者」88名からなる機関であり、憲法の規定に基づき「最高指導者の選出・罷免」をする権限を有しています。
専門家会議のメンバーは、「善良で博識なイスラーム知識人」でなければなりません。
選挙の際には、監督者評議会の審査と承認を受ける必要があります。
また、専門家会議は、「最高指導者の法的な義務の試行の監督にあたる」とされています。
先に触れたとおり、国民の直接選挙で選ばれた専門家会議のメンバーが「最高指導者の選出」をすることになるので、「最高指導者」は間接的にではありますが、国民から選ばれた格好になっているのですね。
イラン・イスラーム共和国の政治体制のまとめ
うつオジサンたち日本人にとっては、理解しにくい「イスラーム」ですが、簡潔に過ぎるほど簡潔に言うと「イスラーム」とは、「神の意志への服従」のことです。
預言者ムハンマドが生存中は、彼の教えに従うことが「イスラーム」でした。
ムハンマドの死後、神の意志を判断する手段として「シャーリア(イスラーム法)」が発展したのだとか。
「シャーリア」とは、元来「水場に至る道」を意味していて、これが転じて「正しい道」、「イスラーム法」を指すようになったようです。
イラン・イスラーム共和国の政治体制は、上述のとおり、複雑な形態をしていることがお分かりいただけたでしょうか?
しかしながら、その根底には、預言者ムハンマドの時代から、「神の意志への服従」、「シャーリア」、「正しい道」、「イスラーム法」が連綿と続いているのですね。
イラン・イスラーム共和国という国が、ちょっとは違った国に見えたでしょうか?
≪参考文献≫
・外務省ホームページ 「イラン・イスラーム共和国(Islamic Republic of Iran)」
・Wikipedia 「イランの政治体制」「イランの最高指導者」
・jiji.com 2021.6.20
・ペルシャナイズド 2020.4.3