「うつ病歴20年目」のオジサンの闘病日誌です!「うつ病」かなって思ったら…!「うつ病」になっちゃったら…!「うつオジサンの闘病日誌」を読んでみてください!何かのヒントになるかもよ!

「夢のお話」 第34話 ~陸軍マラソン~

私は、眠れない夜を過ごし、明け方に眠りについた時に夢を見ます。
その夢の中には面白い物が多く、一人で味わうのが勿体ないと思っています。
そこで、このブログで紹介しています。

今回のタイトルは、「陸軍マラソン」です。

僕は高校の3年生。名前は生田峻祐です。

明日は一年で一番嫌な学校イベントの「マラソン大会」です。

でぶっちょの前村は、「絶対嫌だ!走りたくない。明日はお腹が痛くならないかなあ?」と言いながら、早くも汗びっしょりで、その横で榎田は大きな口を開けて笑っています。

マラソンに自信のある二宮は、明日履く靴を曲げたり伸ばしたりしながら、準備に余念がないご様子。

僕はサッカー部なので、多少の自身はありますが、やはりマラソン大会は大嫌いです。前村ほどではありませんが…。

僕と前村、榎田、二宮は、毎日一緒に通学している友達です。

僕たちは、前村のことを「でぶっちょ」って呼んでるけど、本当は学年で一番図体がでかくて、校内の番長のような存在ですが。意外に人気者です。

前村のことを良く知らない人から見たら、きっと怖く見えるのかもしれません。

ちなみに、前村は体格からも想像がつくように、ラグビー部のキャプテンでフォワード、おまけに国体出場選手です。僕らの「ジャイアン」なのです。

二宮もラグビー部で足の速さからフルバックをしています。

榎田は、バスケットボール部で足はそれほど速くはありませんが、頑張り屋さんです。

僕たちは高校に入ってから、ずっと4人で一緒に通学しています。

部活が違うので、部活が早く終わった人は、他の人の部活が終わるのをいつも部室で待っています。

今日も4人で下校中しました。、いつもチャリンコ通学です。

下校途中にある、昔ながらの駄菓子屋で飲み物を飲んだりお菓子を食べたりするのが僕たちの日課で、部活終わりの楽しみになっていました。

前村は相変わらず「明日は嫌だ~!明日は来るな~!雨よ降れ~!」と言って、僕たちを笑わせてくれました。

そのおかげで、僕たちの嫌な気分を和らげてくれている感じです。

でもやっぱり僕も「明日は、雨が降らないかな~。」と内心ではそう思っていました。

別れ際まで、前村は「明日は雨だよな!」と言っていました。

マラソン大会当日。天気は快晴。前村や僕の願いは叶わなかったみたいです。

スタート時間が近くなって、男子生徒は少しずつグラウンドに集まり始めてきています。

前村の周りには、相変わらず前村を冷やかしたり笑わせたりするために多くのクラスメートが集まっていました。

二宮は一人冷静に準備体操をしていました。きっと上位を狙ってるのでしょう。二宮のスタミナとスピードがあれば、そんなに頑張らなくたって上位は間違いないと僕は思っていました。

榎田と僕は、「マラソン大会が早く終わるといいね。」と言いながらも、内心ではドキドキしていました。

榎田と僕に限らず、ほとんどの生徒がそう思っているんだと思います。

生徒から人気のない体育の先生が朝礼台に立つと、マラソン大会のコースの変更点や注意事項の説明がありました。

「皆さん、怪我のないように、それからあまり無理をしないで頑張ってください。」と言いながらも、これから始まるイベントで生徒をいたぶって喜んでいるようにも感じました。

それから準備体操です。生徒たちはグラウンドに広がって、最後の足搔きをするかのように体を動かしていました。

準備体操になると、いよいよって感じがしますよね。

僕たちは高校3年なので、今回が3回目のマラソン大会です。

でも、今年のコースは昨年までのコースとは少し違っていました。

何でも、宅地造成や道路整備のため、昨年までの小さな山をぐるりと回るコースではなくて、小さな山を越えるコースになったんだとか。小山を越えると、その先は原っぱが広がっているので、小山を越えるところが今年一番の難関です。

体育の教師の声が「それでは、男子生徒は校門の方に向かって少し移動してください。」とスピーカーから聞こえると、男子生徒は観念したかのようにガヤガヤ言いながら、校門の方を向きました。

男子生徒がスタートの位置に着いたことを確認すると、朝礼台に校長先生が立ちました。

校長先生も「皆さん、頑張ってください。」と言ってから、

「位置について、よ~い、ドン」というピストルの大きな音がスタートを知らせて、男子生徒350人が、一斉にスタートしました。

僕の少し前を走っていた前村は、スタートしたと言うのに、いまだに「雨よ降れ~!」と言って、周囲を笑わせていました。

スタートとしてからしばらくは平坦な道を走っていました。

まだまだ序盤なので誰もが元気です。

その先の緩やかなカーブを曲がると、そこからは大規模な宅地造成が行われている区域に並ぶように走って、次にいよいよ山道へと入って行きます。

その頃には、前村も榎田も二宮もどこにいるのか分からなくなっていました。

また、自分がどのくらいの順位なのかも全く分かりません。

山道が近づき、「よし頑張ろう!」と覚悟を決めて山道を登り始めました。

山道に入ると、思ったよりも勾配がキツくて、つい先ほど「頑張ろう!」と決めた気持ちが早くも萎えていく感じです。

周囲を見てみると、走るのを止めて歩き出す生徒がどんどん増えていくようです。両膝に手を当てて「ハアハア」と言っている生徒もいます。

僕は、きっとあの人気のない体育教師がこの意地悪なコースを設定したんだろうと、変なことを考えていました。そして、あの先生は自分で走ってみたんだろうか…と?

そんなことを考えていても仕方がないし、「マラソン大会」なので前に進むしかありません。

僕は余計なことは考えないことにして、ひたすら前に進みました。

しばらく走ったり歩いたりしながら進んでいたときのこと。

前方で「ボン」という大きな音がしました。それは爆弾が破裂したような音でもあり、ガス爆発したような音でもありました。

とにかく前方で大きな音がしたことだけは確かです。

余計なことは考えないようにして前に進むと、また大きな音がしました。

今度は「ババババ~」という機関銃でも打ちまくっているような音でした。

テレビで「ウクライナ戦争」の映像を散々見ているので、きっと間違いではなさそうです。

しかし、「マラソン大会」の最中に機関銃っていうのは、間違っている気がします。でも何も分からないので前に進むしかありません。

「余計なことは考えないって決めたじゃないか!」と思って進んでいたとき、僕の近くに何かが落ちて、大きな音と衝撃で僕は意識を失ってしまいました。

どのくらい意識を失っていたのか分かりませんが、気が付くと辺りに生徒の姿は見えません。あれだけたくさんいた生徒たちの姿が…。

ふと前方の木の上に誰かがいたような気がしました。マラソン大会のはずで、木登り大会じゃないはず。

再び木の上に人の姿を見たと思った瞬間に、「ババババ~」と機銃掃射されました。

僕は訳も分からず、ただ怖くて、すぐそばの木に走って隠れました。

もう一度辺りをよく見回すと、あちらこちらに人が倒れていました。

僕らは「マラソン大会」なので白いTシャツと短パンでした。

しかし倒れている人たちの姿は軍服です。

恐怖を感じながらも倒れている人たちの顔を見てみると、まだ若くて、同じ高校生くらいの年代に見えました。

もう一度、倒れている人の顔をよく見てみました。その顔は見覚えのある人です。その人の顔は榎田の顔でした。

僕は恐怖と困惑で、木に隠れながら小さくなってブルブルと震えていました。

僕はブルブルと震えながらも、色々なことが違っていることに気がつきました。

それは、僕が軍服を着ていたこと。

それは、舗装された道だったはずが、ぬかるんだ土の道になっていたこと。

それは、学校近くの山ではなくて、ジャングルだったこと…です。

「これは夢?だよな!」と願いましたが、僕の足から出血があり、激しい痛みも感じたことから、「夢じゃない現実なんだ!」と気づきました。

これからどうしたらいい?どうしたら生き延びられる?みんなはどこにいる?

恐怖と困惑の中、僕はただ生き延びられる方策を考えました。

ふと後方がどうなっているのかが気になりました。

後方をよく見ると、僕と同じように木に隠れている人が数人いることが分かりました。

「後方は見方みたいだ。同じ学校の生徒だろうか?」と思い、後方に向けて声をかけようと思いました。

でも何と声を掛けたらいいのか分からず、思わず校歌を歌ってしまいました。

すると、一人ずつ校歌を歌う人の数が増えていきました。

「良かった。やっぱり同じ高校の生徒なんだ。」と思うと、少しだけ勇気が湧いてきた気がしました。

「でも、前方には機関銃を構えている人がいる。何人いるのかも分からない。どうしたらいい。」

すると後方から「3年の生田さんじゃありませんか?」と声がしました。

僕が「そうだけど。」と答えると、「僕は2年の前田です。同じサッカー部の…。」と返事がありました。

「前田かあ。良かった。ここまで来れないか?」と聞くと、前田はササっと動くとすぐに僕の横に来てくれました。

「前田、どうなってるのか分かる?」と尋ねると、前田は、

「僕は先頭集団で走ってたんですけど、頂上辺りで急に周りが真っ暗になって、明るくなったと思ったらこんな感じになってました。」なのだとか。

「あの爆弾のような音と機関銃のような物は本物?」と聞くと、

「本物みたいです。先頭集団を走っていた人たちは、みんなやられちゃったみたいです。」と言うと、前田は少し涙ぐんでいました。

それから、前田は分かっていることを少しずつ話し始めました。

・最初、爆弾が落とされてたくさんの生徒が巻き込まれた。

・その後は、機関銃で撃たれるようになった。

・自分たちが後ろに下がると、木の上や茂みに隠れて攻撃してきた。

・日本語じゃなくて、朝鮮半島の言葉みたいだった。

・なぜ軍服を着ているのか分からないが、きっとタイムスリップしたのでは?

・時々、東側の方に何かを取りにいっているみたい。

…と、だいたいは僕が思っていることと同じみたいです。

気になるのは、東の方に何かを取りに行っているってところ。

「武器や弾を取りに行ってるんじゃないのかなあ?」と僕が言うと、前田も、

「僕もそう思ってました。」らしいです。

少し間を開けてから、前田が、

「生田さんは、さっき校歌を歌いましたよね。朝鮮半島の言葉だとすると、校歌が使えませんか?」と言いました。

「でもさ、朝鮮半島の言葉を使ってたら、普通に日本語で話せるんじゃないかな?」と僕が言うと、前田も「そうですよね!」と気が付いたみたい。

「後はどうやってここから抜け出すか?だね!」と二人で考え始めました。

しばらくして、前方の方で銃撃音がしました。まるで、お互いに撃ち合っているみたいに…。

銃撃の音は、少しずつ遠ざかっていくように感じたとき、誰かが前方から校歌を歌いながら近づいてきました。

その顔は二宮でした。「二宮!」と声をかけると、

「おお、生田!生きてたか?良かった!」と言って近づいてきました。

「でも、榎田がやられたんだ。」と僕が言うと、二宮は黙って頷きました。

どうして銃撃が遠ざかっていったのかを聞くと、

「前村が相手の武器庫みたいなのを襲撃したんだ。相手もびっくりしてたみたい。さすが我らのジャイアンだよな。」と言うと、二宮も緊張が和らいだせいか、急に膝が折れて座り込んでしまいました。

僕も足を怪我していたことを思い出して、急に座り込みました。

僕の足の怪我は大したことはないみたいだったので、二宮と前田に先を急ごうと話しました。一刻も早く前村たちと落ち合いたかったのです。

二宮と前田と3人で山道を急いで下っていくと、そこには一面に野原が広がっていました。

先の方には前村たちがいて、僕たちに気が付くと大きく手を振ってくれました。

僕は前村に「ありがと。助かったよ!」と正直な気持ちを言うと、前村は、

「俺を誰だと思ってっるんだ!俺は『でぶっちょなジャイアン』なんだろ!いつも言われてるもんな。でも生田生きてて良かったなあ!」と言って握手を求めてきました。本当は僕がジャイアンを抱きしめたかったんだけど、あまりにも大き過ぎて無理です。

それから、榎田が死んだことを話すと、前村は無言ながら涙がこぼれているのが分かりました。

少しだけ泣いて気が済んだのか、

「生田、いいものを見せようか!ほら、女子が飲み物や食べ物を準備してくれてたみたいなんだ。」と、前村が指差す方を見ると、モンペ姿の女子生徒たちが古いテントの下に置かれた台の上に、たくさんの飲み物や食べ物を並べてみんなに配っていました。

僕は、この全体の光景をどう捉えていいのか分からなくなってしまいました。

これから先のことも当然のことながら心配しなければなりません。

タイムスリップしたのではないかと言うことは、前田とは話しましたが、その他の誰とも話してはいません。誰もがみな気が付いていて、でもきっと話し出せないでいるんだろうと思いました。それを確かめるのが怖いのだろうと…。

そんなことを考えていると、僕が好意を寄せている(大好きな)三浦さんが飲み物と食べ物を持ってきてくれました。僕が「ありがとう。」と言うと、三浦さんは僕の足の怪我に気づいて簡単な治療までしてくれました。

僕はやっぱり「ありがとう。」としか言えませんでした。

僕は、銃撃されたときの緊張と同じくらい緊張してしまいました。

前村たちから「ヒューヒュー!」と冷やかされましたが、三浦さんはただ恥ずかしそうにしていました。(嫌そうな感じではなかったってことは…?)

さて、一息ついたところで、生き残った3年生を中心にして、これからのことを話し合うことにしました。

まだ戦闘は続くのか?あいつらはどこに行ったのか?これから僕らはどこに向かえばいいのか?…などなどです。

誰かが答えを知っている訳でも、何かが分かっている訳でもありません。それに危険があることだけは確かです。

きっと何かをしなければいけないとみんながそう思ったみたいです。

そこで二宮が、「俺たちが先の方を見てくる。前村たちは女子や下級生たちを守っててくれ。行けるか、生田。」と言われ、僕は大きく頷きました。

ラグビー部やサッカー部のうち、気心の知れた4人で行こうとすると、「先輩、僕たちも連れて行ってください。」と前田とラグビー部の後輩の上原が加わってくれました。他にも「行こう!」と言ってくれた人もいましたが、「あんまり大勢だと動きが取れなくなるから。」とのことで、最初に決まった6人で進むことにしました。

前村は手に入れた数丁の銃のうちから2丁を渡してくれ、銃の使い方も教えてくれました。先程の戦闘で覚えたらしいです。

野原を見渡す限り、朝鮮半島の言葉を話すヤツらの姿は見えません。

僕たち6人は、ゆっくりと、しかし少し小走りで先を急ぎました。

僕は、前村の方を見ながら「三浦さんを頼む。」と心の中で言っていました。

サッカー部の柳田と僕と後輩の前田、ラグビー部の二宮と鮫島と後輩の上原の6人で前方に進むことになりました。

他にも、戦時中であれば斥候とでも呼ぶのでしょうか、西側と東側にも4人組尾が探りに行くようです。

僕は一目だけ三浦さんを見てから歩を進めました。

どんどん進んでいくうちに、野原だった風景が山岳地帯になっていきます。

僕らが住んでいたところには、こんな山岳地帯なんてありませんでした。

もちろん機関銃をぶっ放して、爆弾を落とすような人だっていませんでしたけれど。

山岳地帯の入り口で、どうやって進むかを考えていたとき、西側と東側を探りに行っていた4人グループが両側から近づいてきました。

「山沿いに進んでいたらここに着いた。」そうです。しかもおかしなことに方向を示す張り紙がしてあったそうです。

そこで、辺りにそれらしきものがないか探してみると、山岳地帯への入口の上方に進行方向を示す矢印が貼ってありました。

「この矢印はどういうことだろう?」、そして「信じてもいいのだろうか?」

二宮と2人でそんなことを考えていると、後ろの方から「先輩!」という声がしたので振り返ると、僕たちを追いかけてきた1,2年生のグループでした。

「前村さんに僕らも前に進めるように頼んだら、二宮と生田を助けてやってくれと言われました。」と言います。頼もしい後輩たちがいたものです。

「前村さんたちも後から追いかけてくるそうです。」とのこと。

僕はうれしくなって、「じゃあ、みんなで進もうか。辺りを十分に注意しながらだよ!」と言うと、「ハイ!」と声を揃えて答えてくれました。

軍服は、この時だけ似合っていたのかもしれません。

二宮と僕が先頭になって、山岳地帯を登り始めました。

後から追いかけてきた後輩の一人が、「登ってきた山道はなぜか塞がっていて戻れなくなっていたみたいです。」と言います。

横は崖になっていて、後ろは塞がっている、だったら前に進むしかありません。

しかし、登れば登るほど山は険しくなっていきます。

しかも信じていいのかも分からない張り紙に指図されての進行です。

僕は今日のスタートが「マラソン大会」だったということを思い出すと、急に疲れが溜まっていることに気づきました。きっとみんなも同じはず。

3年生で相談して、少し平らになった場所で休憩を取ることにしました。

そして考えなければなりません。どこまで進むのか?敵はどこに行ったのか?張り紙の進行方向を信じてもいいのか?

急に辺りが暗くなったかと思ったら、激しい雨が降り出しました。

僕たちは雨宿りをするために、急いで岩陰に隠れてました。

雨宿りをしていると、緊張と疲れのためでしょう、一人一人眠りに落ちていきました。

僕が目を覚ますと、二宮は起きていました。なぜか真剣な顔をしています。

二宮は、僕にこれだけ言うと岩場から駆け出しました。

「俺がこの先を一人で見てくる。ここにいるみんなのことは頼む!」…と。

二宮を止めようと声を出そうとしましたが、喉がガラガラで声が出ません。「二宮~、無理はするなよ!」とガラガラな声を吐き出しました。

これが二宮を見た最後の姿でした。

雨が上がり、僕たちも出発することにしました。

先に進むにつれて歩けるような道はなくなり、ついには切り立った崖に突き出したような木で作られた道しかありません。テレビで中国の奥地の映像として見た気がしましたが、ここは日本です。今のところ年代は不明。

どうしたものかと考えましたが、後輩の前田と友人が先に行くと言います。

「生田さんが先に行って何かあれば、みんなが困りますから。」というと、崖に突き出た木の道を2人で歩いて行きました。

僕たちは間隔を十分に取ってから、前田の後に追いかけて行くことにしました。

崖の下を見たくはありませんでしたが、どうなっているのかを確かめなくてはと思い、勇気を出して下を覗いてみました。

数十メートルなのか百数十メートルなのか、そのくらいの高さがあり、小さな川が流れているようです。

僕の真似をした後輩は、しばらくその場から動けなくなってしまいました。

「下を見るな!」と言っていいのか?いけないのか分からなかったので、僕は黙ったまま進みました。

しばらく、と言っても、5分か10分ほど経ってからのこと。

先の方から「ワーッ」と大きな声が聞こえました。二宮の声だったみたい。

またしばらく進むと、その先に前田が座り込んでいました。

僕に気が付くと、道の先を指差して、

「二宮先輩がこの先に飛び込んでしまって…。」と言っています。

どういうことなのか、僕もその道の先に行ってみました。

すると崖から突き出た道は、その先が途切れていました。

でもどうして二宮は、ここから飛び込んだんだろう?悲しみや戸惑いよりも、まず初めにその疑問が僕の頭を駆け巡っていました。

前田にそのことを聞いてみると、崖が少し平らになっているところに、

『マラソンコース→』と書かれた紙が貼ってありました。

前田は泣きながら、「二宮先輩は迷ってましたが、先に進まなきゃみんなを助けられないと言って飛び込んだんです。それから、後のことは生田先輩に任せれば大丈夫って言ってました。」と言います。

僕は、二宮が飛び込んだところから下を覗いてみましたが、真っ暗で何も見えません。

「二宮はこの張り紙を信じたってことだよね。」と前田に聞くと、黙って頷きました。

僕はこの真っ暗な暗闇が、先ほど覗き込んだ小さな川が流れていた景色と違っていることが気になりました。

もしかすると、二宮もそう思ったんじゃないのか?

もしもそうだとすると、僕もこの暗闇の中に飛び込まなくちゃならないんじゃないのか?

今日起こっている不思議な出来事は、この暗闇の向こう側にしか解決策はないのでは?

二宮は、感じたであろう恐怖感や絶望感、責任感や使命感などを果たすために飛び込んだんだろう。ならば、僕もこの暗闇の中に飛び込んで何かを変えなければならない。

二宮と僕の後にはたくさんの同級生や後輩たちがいる。後を託せる友人もいる。

そして、大好きな三浦さんもいる。助けなきゃならない大切な人だから。

僕は心を決めて、前田にこう言いました。

「先に進まなきゃみんなを助けられない。だから僕も二宮の後を追う。後のことは前村に任せれば大丈夫!なんてったって『でぶっちょジャイアン』なんだから!」と言うと、向きを変えて暗闇に飛び込みました。

僕は暗闇の中に飛び込んで落ちていく途中に、光る矢印を見ました。

僕は、ひたすらにその矢印の示す方向へ空中を手でかき分けて向かいました。

そしてかすかな光が見えたと思った途端、意識を失いました。

どれくらい気を失っていたのか分かりませんが、誰かに肩を叩かれて目が覚めました。

「兵隊さん、起こしちゃってごめんなさいよ。隣に座っていいかね。」と、僕の隣の席に座りながらモンペ姿のおばあさんが言いました。 顔中しわくちゃのおばあさんの笑顔は、みんなを幸せな気分にさせてくれるような笑顔をしていました。

周りを見渡すと、古臭い列車の中にいました。窓から見える景色はのどかな田園風景。列車に乗っている人たちは軍服を着た兵隊さんやモンペ姿の女性たちに子供たちです。

「ここはどこだろう?どうして列車に乗っているんだろう?」と考えてみたって分かりっこない。顔中しわくちゃな笑顔のおばあちゃんに聞くのも気が引けます。

僕が黙っていると、おばあちゃんが、

「兵隊さんは訓練中なんでしょう。大変だわね。ご苦労様。」と言いながら笑顔で一杯です。

僕は、「どうして訓練中だって思ったんだろう?」と不思議に思って体中を見回してみました。

すると、高校のTシャツと短パンではありませんでしたが、それに近い格好をしていました。帽子は兵隊さんがかぶっているものでした。

Tシャツじゃなくてランニングっていうのかな、その胸には番号が書いてありました。55番。何の番号だろう?その下には生田という名前も書いてありました。

僕は大きく伸びをしたついでに大きなあくびまでかいていました。

すると、そのおばあちゃんは、笑いながら、

「兵隊さん、次の駅でさようならだねえ。若いのに本当に大変だろうけど頑張ってくださいな。」と言いました。

次の駅で降りればいいんだ。そう思うとうれしくなって、そのおばあちゃんに、

「おばあちゃん、ありがとうございます。いつまでもお元気で…。」と僕が言うと、おばあちゃんの笑顔のしわくちゃがさらに増えたように見えました。

次の駅に到着しました。駅の名前は「陸軍学校前」。

僕はその駅で降りると、次の道案内を探しました。

それは紙に書かれた矢印とかの道案内ではなくて、たくさんの人たちが道端に並んだ応援でした。僕に向かってしきりに拍手をしています。

僕は意味も分からないまま、まるでテレビで見たマラソンランナーがゴールに向かってラストスパートをしているかのように、応援に導かれて全力で走りました。

少し走ると、「陸軍学校」らしき建物が見えてきて、走って正門から陸軍学校に入ると、ランナーを待っていた紙テープが横に張られていました。

テープを切ると、「一番は、6教室の生田君です。」と放送で言っています。

「えっ、僕が一番?」

僕はすぐに司令官室に連れていかれ、司令官から表彰状とメダルを貰いました。

自分でも不思議なことに、兵隊さんの儀礼の通りの手順が自然とできていました。

それから上官たちから握手を求められて、もみくちゃにされてしまいました。

僕は上官に対して、「後の人たちの応援をしたいので…。」と言うと、正門へと向かいました。

「二宮はどうしたんだろう?僕より早く着いていなきゃおかしいのに…。」

そう思っていると、次にやって来たのは後輩の前田でした。

前田も2位なので、司令官室に連れていかれ表彰を受けるようです。

それからは次から次から兵隊さんがゴールしました。

しかし、前田以外は知らない人ばかりでした。

表彰から戻ってきた前田と同じ高校の生徒の帰りを待ちましたが、結局誰も帰ってきませんでした。

前田と話をすると、

「僕も生田さんが飛び込んだ少し後に、ラグビー部の同級生に後を託して飛び込みました。もちろん生田さんから『でぶっちょジャイアン』、アッいや前村さんに後のことは頼みますってお願いしましたよ。」なのだそうです。

「でも二宮さんはどうしたんでしょうね。生田さんが一番ですもんね。」

確かに二宮の行方は気になります。

でも、それ以上に後に残された生徒たちはどうしているんだろう?

三浦さんは元気にしているだろうか?

僕と前田は、元の時代に戻れるのだろうか?

疑問は後から後から、僕の頭の中に溜まっていきました。

前田もきっと同じことを考えているのかもしれません。

それからは、僕と前田はこの「陸軍学校」で生活していくことになります。

あの「陸軍マラソン」のことは、僕と前田だけの秘密です。

私が見た夢はここまでです。

今回の夢は、今まで見てきた「夢のお話」の中でも最高の物語でした。

キャスティングは、有名俳優陣と私の友人たちです。

普段なら、有名俳優人なら有名俳優陣で固められた2時間ドラマ風になることが多く、私の友人が出てくる場合には、個人的な物語になることが多いのですが、今回は、その両方が絶妙にキャスティングされていました。

「夢のお話」の内容も紹介しきれないほど濃いお話で、私の未熟なライティング能力では完全に表現することができませんでした。

また、これまでは、夢で見た順番通りに第1巻から第3巻の中で紹介してきまいたが、今回の「陸軍マラソン」はずっと残しておいた「夢のお話」です。

「陸軍マラソン」だけでKindle本が1冊書けないかと思い、取っておいたものなのです。

(本当はまだまだお話は続いていましたし、もっと奥深かったのですが、Kindle本として1冊で書くときにすべてを書こうと思っています。今回の分だけでも十分に楽しめるのではないかと思います。)

もしも、私のライティング能力がもっと高く、私個人の「創作はしない」という変なこだわりがなければ、もっともっと面白い作品になったのではないかと思っています。

「創作はしない」のですが、ストーリーを変えないというだけで、たくさんの加筆によって成り立っているのですが…。

今回のストーリーはずっと「夢ノート」にも私の頭にも残っていましたので、いつもより力を入れて加筆してしまいました。

しかし、ストーリーだけは決して変えていません。

うつオジサンの「夢のお話」は、何だかとても面白いと思いませんか?

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